HOLIDAY!!
A
ぼくがおきたのは、もう夕方になってからで、しかも自分のくしゃみで目がさめた。
車の中は何一つうごいてなくて、だんぼうもきいていない。ちょっとさむくて一気にこわくなっちゃった。
「父ちゃん。」
呼んでみてはじめて気がついた。父ちゃんがどこにもいない。
「…ジェーン?」
ジェーンのすがたも、どこにも見えない。
「…父ちゃん。…ジェーン。」
なんで父ちゃんたちはぼくのことをおこしてくれなかったんだろう?あんまりにも二人で話すのがたのしくて、ぼくのこと忘れちゃったのかな?それとも、うすうすは思ってたんだけど、やっぱり父ちゃんやフジコやジェーンにはぼくなんていらないのかな??ジェーンがあんまりぼくとしゃべってくれなかったり、父ちゃんとかフジコとかがぼくに会いに来てくれないのは、ぼくがいらないニンゲンだからなのかな?
今日はゆうえんちに行くふりをして、実はぼくのことをとおくに捨てに来たのかな?
……。
そんなのイヤだ!!
そう思ったら急にかなしくなって、目からなみだがたくさん出てきた。
ひるまあんなに楽しかったことなんて、ぼくはすっかり忘れてた。あとでかんがえれば、父ちゃんやジェーンはさいしょからずっとやさしかったのに。
「とうちゃあぁぁあぁぁぁん!!」
ぼくはめいっぱい父ちゃんのことを呼んだ。イヤだ。おいていかないで。お願いだからぼくのことをきらいにならないで。
「じぇえぇえぇぇえぇん!!」
もうベーコン豆がまずいだなんて言わないよ。だから帰ってきてよ…。
でもどんなに泣いてもさけんでも、父ちゃんも、ジェーンも、ぜんぜんむかえに来てくれなかった。それどころか、あいかわらず車のまわりにはぼく以外に一人のニンゲンもいない。
このまま車の中にいたって、きっと父ちゃんたちには会えないような気がする。
ぼくはこぼれてくる涙とハナミズをようふくのそでで思いっきりふくと、車から出るケッシンをした。ちょっとこわかったから、もって来たツインブレードをりょうてでしっかりにぎっていく。あんまりしっかりにぎってて指が白くなっちゃったんだけど、そんなことは気にしていられない。父ちゃんたちをさがさなきゃ。ぼくをおいてかないでって言わなきゃ。
ロックをカイジョして車のドアをあけると、一気に冷たい風がぼくに向かって吹いてきた。うす暗い辺りを見回すと、車の目の前でまっ黒な海がボウハテイをのりこえてぼくを引きずり込もうと手まねきしてる…。よくジェーンが話してる「アノヨ」って、こんなかんじなのかな?じっさいは、ここはミナトみたいだったけど。ゆうえんちのカンランシャの明かりが見える向こう岸が、まるで天国のように見えた。
「ルパン三世…。」
もう父ちゃんが来てくれないことはわかってたけど、なまえを呼べばユウキが出るような気がして、ぼくはなんとなく父ちゃんのなまえを呼んでみた。「ルパン三世」。
カッコウ悪いけど、父ちゃんの大切な名前。ホントは知ってるんだ。「ルパン三世」はドロボウの名前で、ぼくはドロボウのムスコだってこと。ピストルをもってるからおまわりさんにつかまるってだけじゃなくて、ドロボウするからいつも逃げてるってこと。
父ちゃんがぼくに言いたくなさそうだからぼくはきかないけれど、本当はぜんぶ知ってるんだよ。ジェーンとセンちゃんとフジコと、いつもせかい中を回ってること。でも、ぼくは父ちゃんが「ルパン三世」でもドロボウでもなんでもいいんだ。ぼくはもうひとつちゃんと知ってる。
父ちゃんは、この世でいちばん強くてやさしくてかっこいいってこと。
だから父ちゃんをさがさなきゃ。さがして、ぼくを捨てたんじゃないってショウメイしてもらわなきゃ。
思いきってふり向いた所に、大きな倉庫が一つたっていた。古いのか海風でさびてしまったのかわからないけれど、今にもくずれ落ちそうな大きなたてもの。夕方のうす暗い中見ても今は使ってないってはっきりわかる。
その倉庫の大きな入り口から、ほんの少しだけ光がもれていた。
父ちゃんたちはここだ。
なんだかわからないけれどぼくはぜったいに当たってる気がして、そのちょっとだけ開いているせまいすきまから、こっそり中に入ることにしたんだ。
中は外よりももっと古くてきたなかった。そこら中に鉄のかたまりとか曲がったネジとかいっぱい落ちてて、そこら中にサビて穴のあいたドラム缶がころがってる。所々へんなにおいのエキタイが固まってて、ときどき気もちわるくなりそうになる。何を作っていたのかわからないけれど、いろんな太さのパイプもたくさんとおってて、今にもパンドラのブカがものかげからあらわれそうだった。ぼくはツインブレードをもつ指に力をこめて、音も立てないようにこっそりこっそり光の中心へとゆっくり進んでいった。どこにもぶつからないで進んでこれたのは、ぼくがまだちっちゃかったからだ。ぼくははじめて自分がこどもでよかったって思ったんだ。
しばらくまっすぐ行くと、小さいけれど人の話声が聞こえるようになった。何を話しているのか最初はわからなかったけど、ちょうどドラム缶とパイプのめいろが終わりそうなころ、それははっきりと聞こえてきたんだ。
父ちゃんと、ジェーンと、それから知らない男の人の声。
「お前も往生際が悪いぜ、ルパン三世。この期に及んでまだ悪巧みしてやがんのか?」
「へっ…。俺の悪巧みを怖がってるテメェこそ、そろそろママのお乳をもらいに帰ったほうがいいんじゃねぇか?」
くすくすと笑い声が聞こえたような気がする。もしかして、父ちゃんが笑ってるのかな?
「…ッ!!ワルサーもねぇくせに舐めてんじゃねぇぞこの野郎っっ!!」
ガッシャーンって大きな音がして、ぼくは思わず足を止めちゃった。こんな大きな音は父ちゃんとジェーンが家の中でジュウゲキセンをしてるときにも聞いたことない。
「ルパンッ!!オイッ!!ルパンッ!!」
ジェーンが必死に叫んでる。ジェーンのこんな声だってぼくは一回も聞いたことない。ジェーンはいつもレイセイで、父ちゃんとケンカしてるときとかぼくをおこるとき以外は大きな声すら出さない。それなのに、今のあの声は、ジェーンの声のようでジェーンの声じゃないみたいだ。
「心配するな。残念ながら気を失ってるだけだよ。」
もう一回、知らない男の人のこえが聞こえた。どうやらこの人が父ちゃんをひどい目に合わせたみたいだ。
「俺は気を失ってる人間を殺ってしまうほど趣味の悪い人間じゃないもんでね。ちゃんと起きてから、苦しみに悶える顔をしっかり鑑賞しながら殺ってやる。お前も、なっっ!!」
また、さっきと同じガッシャーンって音がした。もしかしたらさっきよりも大きかったかもしれない。音といっしょに、ジェーンがうめくような声が聞こえた。
早く助けなきゃ。ぼくのあたまはわかってた。今ここで父ちゃんたちを助けられるのはぼくしかいない。ここにはフジコもセンちゃんも、だれもいないのだから、つかまってないぼくが二人を助けなきゃいけない。
でもどうやって?
ぼくはマグナムもワルサーも持ってないし、何より大の大人と戦えるような体がない。おもちゃのツインブレード一本じゃ、ぜったいに勝てないよ…。
それに…。それにさっきからぼくの足はまるで自分の足じゃないみたいに、ガクガクふるえてた。一歩ふみだしたら、きっと足がもつれてころんじゃう。
こわい…。
あの父ちゃんやジェーンが負けちゃうくらい強いんだ。ぼくなんかが向かっていったって、勝てっこない。
「おい、どうした。天下のルパン三世ともあろう者が、たったのこれ位でくたばっちまうのかい?いい気味だぜ。明日から俺は『ルパン三世を殺した男』としてハクが付く。そしたら世界一の殺し屋だ。」
また、男の人の声。もう、ぼくはこの声をきくだけで吐き出しそうだ。おねがいだから、これ以上父ちゃんとジェーンをいじめないで…。
「…クッ…。クックッ…。弱い犬ほどよく吠えやがるぜ…なぁ?」
「…あぁ、全くだ。」
しばらくすると、父ちゃんが気づいたみたいだ。でも二人の声はもうかすれてしまって、ほとんどぼくの耳にはとどかなくなりかけてた。なんで、もう負けそうなのにさらにおこらせるようなこと言うんだろう?そこに、あの男の人の声と、何かをけるような、なぐるような、たたきつけるような、変な音がかさなる。おわりには、父ちゃんたちのうめき声すら聞こえなくなっちゃった…。
このままじゃ父ちゃんたちが死んじゃう!!
なんとかしなきゃ…。
なんとかしなきゃ!!
ぼくはがんばって、とにかく前に進もうと右足をむりやり前につきだした。やっとのことで一歩出た…。でも。うごき始めたそばから、くつの下でクギがジャリって音を立てた。今まで一度だってクギふんだことはなかったのに。音を立てたら見つかっちゃうよ!!そう思ってまた足が止まってしまったけれど、その音は男の人の話し声にうまくかき消されたみたいだった。だれもまだ、ぼくがいることには気づいてない。よかった…。ちょっとだけ安心してまた一歩足を前に出す。もう少し行けば、きっと父ちゃんたちが見えるようになるはずだ。
しばらく歩いてさいしょに見えたのは、黒いふくの、仮面ライダーに出てくるショッカーみたいな男の人たちだった。みんな同じようなカッコウをして、みんな同じ方向にピストルのちょっと長いヤツを向けていた。きっと、さっきからずっとしゃべりつづけてる男の人のブカたちだ。ぜんぶで10人くらいだと思う。みんなむずかしいかおをして(ってもサングラスで目が見えない人もいたけど…)、みんな同じところを見ていた。
もうちょっと歩いていくと、こんどはボスらしき男の人のせなかが見えた。足下で何かをけってる。オイル缶のカゲから首をのばしてみたら、何をけってるのかわかっちゃった…。
ナワでしばりつけられたイスごとたおれているあの黒いスーツの人は…ジェーンだ。
もうジェーンはうごかない。それでもあの人はジェーンをけり続ける。あの人が一回けるごとに、ジェーンの体が曲がっていって、その音といっしょにぼくのむねも苦しくなった。あんまり苦しかったから、ぼくはいっしゅん、何も考えずにとびだそうと思ったんだ。さっきまでとおおちがい。冷たくふるえていた足はもう指先まであつくなってた。ジェーンのところに行かなきゃと思ったんだ。ジェーンのタテになりたかったんだ。そうしてしまうと三人ミナゴロシになってしまうだろうことはすぐにそうぞうできたんだけど、だからって自分を止められるほど、この苦しさはかんたんじゃない。
でも、けっきょくぼくは走り出さなかった。
ジェーンのすぐそばに、たぶん同じようにたおれてる父ちゃんの赤いジャケットが、少しだけ見えたから。
ぼくはみんなで死ぬためにここへ来たわけじゃない。父ちゃんに、ぼくを捨てたんじゃないってショウメイしてもらうためにここへ来たんだ。
そう思ったら、しぜんに足が止まった。
ぼくが何かサクセンを考えなきゃ、三人ミナゴロシになるってことは。
ぼくが何かサクセンを考えれば、三人とも助かるってことだ!!
ぼくは今まで生きてきた中で、今日がいちばん脳みそを使ったんじゃないかと思うくらいあたまをフル回転させた。
ぼくは武器をもっていない。
父ちゃんとジェーンにはワルサー(の他にもいろいろ)とマグナムがある。
ぼくはテキよりもずっとずっと小さい。
この中にかくれる場所はたくさんある。
「いいこと思いついた!!」
思わずつぶやいてから、またぼくはあわてて口をおさえた。
見つかっちゃったら全部おわっちゃう。いいこともわるいこともあったもんじゃないっていうのに。
気を取り直して、こっそりこっそり、さっきとは反対の道を歩く。今度はクギをふむなんて失敗はしなかった。足はふつうにうごくし、もうこわくも何ともない。ぼくは一人だしあいつらよりも小さいけれど、これできっと勝てるよ。父ちゃんとジェーンを助けるんだ!!
半分くらいもどった所で、ぼくはまたくるりと体をカイテンさせた。一回止まって大きく息をする。こういうときは、落ちつきがカンジンだって、いつか父ちゃんが言ってたんだ。右手のツインブレードをもち直すと、一度ゆっくりと辺りを見回した。
モンダイなし。まわりにはドラム缶もパイプも、とぎれることなくおいてある。
それから、シンコキュウしただけじゃいきなり行くのはちょっとシンパイだったから、父ちゃんにおそわった、まほうのカウントダウンをしてから行くことにした。
「3。」
イキをゆっくり吐きながら、それに合わせて目を閉じる。
「2。」
かみさまなんかくそくらえって思いながら、自分自身に十字を切る。
「1。」
開いた左手をイッシュンだけギュッてにぎって、この世の運をかみさまの分もぜんぶ自分のものにして。
ガッコーン!!
「だ、誰だ!!」
突然の音に、男の人がかっこわるいさけび声を上げた。
いちばん近くにあったドラム缶に、ぼくが思いっきりツインブレードを打ちつけたんだ。男の人の声は全くムシして、次はそのとなりのパイプ。その次はまたドラム缶。わざとでっかい音を次々とならしながら、ジグザグに歩き回って父ちゃんたちのいる光の方へと近づいていった。
「あきらめないぜ、なげださないぜ♪」ガッターン。
「な、何なんだ!?」
「さいごのさいごの、さいごまで負けないぜ♪」ガッコーン。
「どこだ!!さ、探し出せ!!…い、いや行くな!!ルパンが逃げる!!」
「平和を切りさくヒメイを聞いたら♪」ガッシャーン。
「この声…女か…!?」
「たちまちおれの 血がもえる♪」ドッターン。
「近づいてきます!!」
「行くぞ行くぞ結晶♪まかせろまかせろ結晶♪」ジャリーン。
「クッソ…ふざけた歌歌いやがってっ…!!」
「オレのイカリはバクハツスンゼン♪」ガッシャーン。
「いい加減に出てこいっ!!」
「光をこえて、明日を守る♪」ドッシャーン。
「ボスッッ、来ます!!」
「ええいっ!!今だけルパンから照準を移せ!!」
「ジクウセンシだ、オレはスピルバン♪」ガァァァン。
「来たっっ!!」
「……。」
思わずぼくはニヤリって笑っちゃった。
そのシュンカンの大人たちの顔を見たら、ぼくじゃなくてもクセになっちゃうと思うよ。こんなおかしなばめん、一体だれがソウゾウできる?きっとだれもこんな小さい子供が出てくるなんて思わなかったんだ。フジコか…または別の女の人か…とにかく、声の高い、それでも大人の人が父ちゃんを助けにやってきたんだと思ったんでしょ?ぼくがドラム缶のすきまから出てきたとき、いっしゅん世界中の時計が止まった。ショッカーたちはぼくに合わせたピストルの引き金を引くことができずに、その手を下ろしてしまったし、ボスの男の人は大きくあいた口をふさげなかった。キズだらけで全身がイタいはずの父ちゃんたちでさえ、目を見開いて何も言えなかったんだから。
「…あれ?ヨウスケは?」
ダメ押しに、ひとこと追加してあげた。別に父ちゃんたちをさがしに来たんじゃないってことをキョウチョウしなくちゃね。これで余計にみんなの気が抜ける。それにしても、予想がはずれてガックリ来るみんなっておもしろい。みんな、ぼくを見て石になっちゃったみたい。ぼくはヨウカイ辞典に出てきたゴードンだ。
「…坊主…。何しに来た…。」
やっとのことでさいしょに口を開いたのはジェーンだった。ジェーンって、こんな時にも一人レイセイなのかな?あんなにイタそうなカッコウをしてるのに、もういつものジェーンに戻ってる。今にもソファーにねそべりそうだ。つまんないの。でもその声にハッとしたのか、男の人も正気をとりもどしたみたいだった。あわてて口を元にもどして、しかめっ面でぼくのことをまじまじと見た。
「おまえ…まさかルパンのことを助けに来たってんじゃないだろうなぁ…?」
「ルパン…?だれそれ?ぼくはヨウスケをさがしに来たんだよ。おじちゃんこそ、ヨウスケ知らない?」
コイツがさっきまで父ちゃんたちをひどい目に合わせていたヤツだ、そう思ったらイカリでかおが真っ赤になりそうだった。メチャメチャにたたいてしまいたい気分だった。でもぼくは、ガマンしたんだ。目の前にいる父ちゃんとジェーンを助けるために。
「ヨウスケ?」
しかめっ面だったボスのかおが、ちょっとだけふつうにもどった。なんだか、ぼくがテキじゃないってわかって安心したみたいだ。ホントはちがうのに。ザマミロ。
それにしても、よく見るとこのボスのかお、何かがヘンだ。なんでだろ?
「そう。スピルバンに出てくるジョウヨウスケだよ。ここにいるって聞いたんだ。この中にいるの?」
何がヘンなんだろう?もっとよくボスのかおを見るために、ぼくはウソのしつもんをした。ヨウスケがこんなところにいるわけないじゃん。でも、大人たちはみんなぼくの言ってることがホントだと思ったみたいだった。もちろんヨウスケはここにいないけど、ぼくが「本気で」さがしに来たんだってことは信じてくれたみたいだ。父ちゃんとジェーン以外は、だけど。
「ねぇ、おじちゃんたち知らない?」
ウソをつくのはホントのことを言うのよりもむずかしかったけど、なんでかきらいじゃなかった。みんながぼくのウソを信じてくれるのはうれしい。
「そんな名前の人間はここにはいねぇよ。」
でも、いちばんに答えたのは目の前にいるボスじゃなくて、となりにたおれてた父ちゃんだった。
「だからとっととここから出てきな。ここはガキの来る遊び場じゃねぇ。」
そのときぼくは思ったんだ。今までぼくが父ちゃんだと思ってた人は、実はニセモノの「ルパン三世」だったんじゃないかって。だってその声を聞いたとき、ぼくは心からこわくなっちゃったんだよ。父ちゃんの言ったセリフそのものより、その言い方、その声の低さ、どれをとっても、ぼくの知ってる父ちゃんとはちがってた。もしもジゴクのエンマ大王さまがいたら、きっとこんな声でしゃべるんじゃないかな。とにかく、そこにはぼくが助けなきゃいけない「父ちゃん」はいなかったんだ。いるのは、せかいをマタにかける大ドロボウ「ルパン三世」ただ一人。本気で、ぼくをここから追い出そうとしてる。せっかく助けに来たぼくを。ちょうどぼくにせなかを向けてるルパン三世の顔は、きっと氷みたく冷たいんだ。
「…やっぱり…。」
「やっぱり?」
思わずつぶやいた一言に、目の前のボスがうたがわしそうな目をぼくに向けてきた。やっぱりって何だ、ってその目は言ってる。いけない。思わず本音が出そうになっちゃった。
『やっぱりぼくはヒツヨウのないニンゲンだったんだ。』
って。父ちゃんはぼくの助けなんていらなかったんだ。それよりも、ぼくがちょっとでも早く父ちゃんの前からいなくなることをのぞんでる。でも、だからってあやしまれたボスにここでつかまるのは何だかくやしい。なんでせっかく助けに来たのに出てけって言われてその上つかまらなきゃいけないんだ。それに、ぼくがヒツヨウじゃなくても、きっとジェーンたちはフジコやセンちゃんにとってヒツヨウだ。
「やっぱり。ウソじゃないかとは思ってたんだ。だってこんなところにヨウスケがいるわけないじゃんね。」
あわててボスみたいなしかめっ面を作って、ちょっとザンネンそうな声を出して言った。とにかくここから出なきゃ。
「じゃあぼくもう帰るよ。ジャマしてごめんね。」
かわいくておりこうな子供のふりをして相手をユダンさせるのは父ちゃんたちを相手に何回もやってるから、とくいちゅうのとくいだった。ユダンさせてサクセンヘンコウ。やっぱりフジコたちを呼んでこよう。
そう思って出口へ向かおうとしたら、思いもかけずボスに呼び止められた。
「おい。待て、坊主。」
ぼくはシンゾウが止まるかと思った。あまりにもこわそうな声でボスが呼び止めるから。ウソがばれたんだと思った。やっぱり、ぼくには父ちゃんみたいなウソはつけないんだ。ぼくは弱い子だから。ぼくはヒツヨウのない子だから。きっと、ボスはよけいにおこってぼくのことを口封じでコロすにちがいない。サクセンシッパイ(とちゅうであきらめちゃったけど…)。三人ミナゴロシ…。
固まったぼくには、自分が止まってからボスが次のセリフを言うまでの間にすごい時間がたったような気がしてた。次から次へとわるいことがソウゾウできてしまって、本当に、このまま死んでしまうかもしれないって思ってたんだ。
でも、どうやらちがったみたいだ。
「おい、誰か外まで送ってやれ。また変な所で寄り道でもされたらたまったもんじゃない。」
その一言を聞いたシュンカン。
「ぼく、この人に送ってもらいたい!!」
頭よりも先に口が出てた。口の後にとっさに指さした先には、つかまえた時に父ちゃんたちから取り上げたんだろうワルサーとマグナムを持った、若い男の人がひとり。
「この人、ヨウスケに似てる。カッコいいおもちゃももってるし、ぼくこの人に送ってってもらいたい!!」
おもちゃって思い込んでると思えば、たとえホンモノのピストルだってただの子どもに取られるシンパイないでしょ?ヨウスケに似てるってのは本当に全くのウソだけどね。ホンモノはもっとカッコいい。送ってもらってるとちゅう、二人になったスキに、あれを取り返そう。
さすがにボスはちょっとだけ迷ったみたいだったけど、ぼくがじっと見つめてたら、どうにか許してくれたみたいだ。どうやらボスはじっとかおを見られるのがきらいみたい。気まずそうに若い人にアゴでサシズしてた。まてよ…。もしかしてボスは…。
「しょうがねぇなぁ…。おい坊主、行くぞ。」
ボスにしっかりテイネイなおじぎしたその男の人は、シンチョウにワルサーとマグナムをコシのうしろにしまうと、同じ人とは思えないくらいめんどうくさそうにぼくの前を歩き出した。
「あ、ちょっとまって!!」
思いついたぼくはあわてて父ちゃんとジェーンのところにもどった。
「おじちゃんたち、元気でね。」
ぼくはジェーンと父ちゃん、じゅんばんにぎゅって抱きしめた。何だか気まずそうなかおをしていたジェーンのかおは見たけれけど、父ちゃんのかおはやっぱりぜんぜん見られなかった。