HOLIDAY!!

B

「おい、早くしろ!!」

気のみじかい若い男の人が呼ぶ。ぼくは、わざとゆっくり歩いてもどった。下を向いてツインブレードをいじりながら。ぼくが追いつくと、男の人が出口のほうへと早足で歩いていく。でもぼくはかわらずツインブレードを見ながらゆっくり歩くから、それを男の人はぼくが追いつくまで先のほうでまって、追いついたらまた早足で歩いていく。そのくりかえし。二人のきょりはすぐにはなれちゃう。

「何やってんだ?」

とうとう、キミョウに思った男の人が、引き返してきてツインブレードをのぞきにやってきた。

「こ…こわれちゃったんだ!!さっきいっぱいドラム缶たたいたから!!…でも、もうだいじょうぶだよ!!直ったから!!」

あわててツインブレードを男の人の目の前につきだす。何もイジョウはないよってね。ヘタにかくすとよけいにあやしいし。そして、男の人が手をのばしてくるイッシュン前にひっこめた。そうすると、よっぽどダイジでさわられたくないものみたく思われるんだ。

「チッ。だったらさっさと行くぞ。」

男の人は、さわれなかったのがショックだったみたい。こんどはちょっとだけスネて歩き出した。さわりたかったのかな?アンガイ、わるい人じゃないのかもしれない。

「あ、待ってよ。」

でも。ぼくのサクセンはわるいけどここからなんだ。

男の人について行くように、ワルサーとマグナムを見ながらちょっとだけ走って。

イチ、

ニ、

サンッッ!!

思いっきりふり向いたぼくは、思いっきりツインブレードをボスめがけてふった。さっき抱きついたときに父ちゃんのフトコロから取ったテグスとつりばりが、しばりつけたボウの先からいきおいよくボスのほうへとんで行く。

で。

次のシュンカン、ぼくはまた思いっきりツインブレードを引っぱった。とんでったときよりもたしかな手ごたえといっしょに、つりばりがもどってくる。先っちょに、何かフサフサしたモノをくっつけて。

「…こンの…ガキーッッッ!!」

ハッとしてあたまに手をやったボスが見る間にオニのようなヒョウジョウにかわって、真っ赤なかおしてさけんだ。大人ってヘンなの。思わず笑いそうになったんだけど、それを合図のようにブカたちがいっせいにぼくに向かってくる。行かなきゃ。

ぼくは前を歩いてた男の人に向かって全力で走った。追いつかれる前に、なんとかワルサーとマグナムを取り返さなきゃいけない。でも、ぼくと男の人の差はちょっとだけはなれすぎてた。ぼくとのきょりはうしろから追ってくる人たちのほうが近い。もうふつうに走ってたんじゃ間に合わない!!だから男の人がうしろのイヘンに気づいてふり向くチョクゼン、ドラム缶によじのぼったぼくは思いっきりジャンプした。

「わっ!!何だこの野郎!!」

ふり向きかけてた男の人に思いっきりとびついて、そのいきおいでワルサーとマグナムをベルトから抜く。ぼくを引きはがそうとイッショウケンメイになってる男の人は、二丁のピストルが自分からはなれたことに気づかないみたいだ。

「こらっ!!離れろっ!!」

ドンッてショウゲキといっしょに、ぼくの体は投げとばされてじめんをころがった。ワルサーとマグナムがツインブレードにしばり付けられたテグスにからまって、さらにぼくの体にまきついた。

「い…イッター…。」

何とかおきあがらないとジェーンたちのところに届けられない。これまでにないくらいふんばっておき上がったぼくは、ちょうど背中でからまった二丁のピストルの重さによろけた。みんな、こんな重いもの持ってまいにち生活してるの?大人って、信じられない。歩くのでさえ大変じゃないか。

「オラッ!!あのガキを捕まえろ!!」

ボスがあいかわらずオニのようなかおをして、ぼくに向かってトッシンしてくる。それにつづいて、ブカたちが黒い固まりになって向かってきた。うしろからはワルサーとマグナムを取られたことに気づいた男の人が、あせってこっちに向かってくる。

そのあいだ、ジェーンたちのところにはだれもミハリがついていない。

さぁ、ぼくはどうしたらいい?

みんなが円になってぼくに手をのばしてきたそのとき。

「見えた!!」

また、ぼくはうれしくなってニヤリと笑っちゃった。みんなバカだなぁ。ぼくのサイズじゃ、囲まれたあの足元はカッコウのぬけ道だよ。どんなに上を囲んだって、ぎゃくにそんなところはとおれないのに。

ピストルに体重をもっていかれないように思いっきりふんばったぼくは、その反動をつかって思いっきり走り出した。もう止まれなくたっていい。このままジェーンたちのところへイッチョクセンだ!!

「ジェーン!!」

黒い固まりを抜けるころには、二人はもうナワをといてイスからはなれていた。父ちゃんなんて立ち上がって周りを見回してる。あんなにひどい目にあったのに、もうふつうにもどってるなんて、やっぱり父ちゃんはすごい。とおくから走りながら、ぼくはもう一回父ちゃんをソンケイしちゃったんだ。うしろではまだぼくがあそこにいると思ってみんな固まってさわいでるのに。ほんと、『テントチノサ』だ。

そんなことを考えながら走ってたから、ますますいきおいがつきすぎて止まれなくなった。ぼくは、すわりこんで首を回してたジェーンに思いっきり体当たりしちゃった。

「よぉボーズ。こりゃまた派手に暴れたもんだな。」

ショウゲキの後に目を開けると、そこにはいつもよりちょっとよごれた黒いスーツ。とくにビックリするわけでもなくぼくを受け止めたジェーンは、にっこり笑ってぼくにからみついたテグスをジッポで切ってくれた。ジェーンのこんなえがおも、ぼくははじめて見たような気がする。

「お前さんはよくやった。あとは俺たちに、まかせなさい。」

ポンポンってぼくのあたまをたたいたあとに、ほれルパン、って言って父ちゃんにワルサーを投げる。まるでボールでも投げるみたいだったけど、何であんなに重いものがカンタンに投げられるんだろう?大人って、やっぱりわけわかんない。

クルリとシリンダーを回してタマのかずをカクニンしたジェーンは、いつかのぼくと同じようにニヤリと笑って父ちゃんを見た。ジェーンの向こうにいた父ちゃんも、ホントにたのしそうにニヤリと笑った。

「ほんじゃま、行きますか。」

次のシュンカン。

ズキューン―…。

二ハツのタマが、天井に向かって仲良くとんでった。うったシュンカンがいっしょだったから音は一回しか聞こえなかったけど、まちがいなく、ワルサーとマグナムが火をふいたんだ。

聞えるはずのないところからピストルの音がして、みんなきっとびっくりしたんだと思う。もごもごとうごいてた黒い固まりのうごきが、きゅうにピタリと止まった。

「…ま、まさか…。」

中心にいたボスが、おそるおそるかおを上げる。

「そ〜ぉ。そのまさかよ。ルパン三世ダ〜イフッカ〜ツってな。」

ピストルを向け直した父ちゃんとジェーンを見たボスのかおが、あまりにもまっさおになったから、ぼくはこのままあの人が死んじゃうンじゃないかと思った。さっきまでのゆでだこみたいなかおとはまるで別人みたい。あんな人が父ちゃんをころして「世界一の殺し屋」になろうとしてたなんて、信じられない。ぼくにだってムリだとわかるよ。

「や、やられた!!ルパンが銃を持ってるぞ!!」

やっとのことでさけぶと、ボスはほかのブカといっしょにそのままヘナヘナとすわりこんじゃった。どうやら、さっきまでは父ちゃんたちがしばられてたからいばってただけみたいだった。どうぶつえんのオリの中にいるライオンに向かって「おれさまはニンゲンだ!!お前は弱いライオンだ!!」って言ってるようなものだったんだ。なんだ。

「俺様は今機嫌が悪いんだ。殺られたくなきゃさっさとここからで出てって、もう二度とその汚いハゲ面見せんじゃねぇ!!」

父ちゃんがそうやってスゴんだシュンカン。ボスたちはあっという間に逃げていっちゃった。お互いにぶつかり合いながら、なさけないさけび声といっしょに。あんなにこわかった人と、同じ人とは思えない。ぼくのクロウが何だかホントにバカみたいに思えたシュンカンだった。

「忘れ物ですよ〜。」

つぶやいたジェーンが、つりばりに引っかかってたカツラを人さし指でふりまわす。そのうちカツラはすっぽり指からぬけて、ヘンなにおいのするエキタイの上にぽとりとおちた。

「あ〜あ。もう使いもんになんねぇな、あれ。」

「ヘッ。ザマミロってんだ。さっ、俺達も帰ろうぜ。」

ワルサーをしまって歩き出した父ちゃんのせなかを、ぼくとジェーンが追いかける。ジェーンはぼくとしっかり手をつないでくれた。今日ほどこの手が力づよいことはないよ。

 

 
倉庫を出ると、外はもうまっくらだった。うみかぜが体にふきつけて、本当にさむい。でも、ぼくはもうこわくはなかった。どんなジゴクだって、ジェーンといればこわくない。天国の明かりだって、ジェーンには負けるんだ。

もう少しで車につくというときになって、そんなジェーンがいきなりピタリと止まった。なにかと思って見上げてみても、そのかおは暗やみにまぎれて見えない。

「ルパン。」

よび止めた声に、車にのり込もうとしてた父ちゃんが止まった。

「あ?どしたの?」

ヘッドライトをてらして辺りを明るくしてから、ふしぎそうなかおをジェーンに向ける。

「おまえ、なんか息子に言うことあるだろ?」

それを聞いて、ぼくは思わずびくっとしちゃった。きっとつないだ手を伝わって、ジェーンにもわかっちゃったと思う。めんと向かってサヨナラって言われるのかな?ここでぼくはおいてかれるのかな?今日からあのくさい倉庫がぼくのいえ?

いやだ。おいてかないで。

ぼくはこわくなってジェーンの手をしっかりにぎりしめた。

「ほら、こいつが怖がってるぜ。自分は必要のない人間だと思ってやがる。」

「あぁ?なんでだよ?」

「おめぇさっき言ってたじゃねぇか。せっかく助けに来たボーズに向かって『とっととここから出てきな』ってよ。それはそれは怖い形相だったぜ。なぁ?」

コクリとぼくがうなづくと、やっとわけがわかったのか、父ちゃんがあわててぼくのところへやってきた。

しゃがみこむと、まじまじとぼくのかおをのぞいてきた。そこにはもうエンマ大王さまのかけらもない。いつものやさしい父ちゃんだ。

「お、おまえ、それでさっきっから俺に近寄らなかったのかよ?」

コクリ。ついでに言えば、ジェーンといっしょのジゴクへは父ちゃんはつれてってあげない。

「ばっかだねぇ〜!!あんなの、お前をここから逃がすためのウソに決まってんでしょ!!第一、ワザと捕まったのだって車にいるお前から離れるためだったんだぜ?あんなやつら、俺たちの相手じゃねぇや。いたぶられ損もいいとこだぜ。」

思いもかけないことを言われたぼくは、おどろいてことばが出なかった。え?そうだったの?ぼくを守るためにつかまったの?ぼくを捨てるためじゃなくて助けるため?あまりにもおどろきすぎて、目の玉がとび出るかと思った。じゃあ、ぼくがイッショウケンメイがんばったのは、あれはほんとになんだったの?

「言ってくれなきゃわかんない。」

どうにか目の玉をしまって、せいいっぱいのしかめっ面を作る。そうでもしないと泣きそうだ。いったいぼくはなんだったの?

「ウソってのはな、見方も騙し通してこそのウソなんだぜ、ボーズ。」

やさしい声で父ちゃんが言う。でも、そんなこと今さらおしえてくれたっておそいよ!!ぼくはてっきりすてられると思ってたのに。

「父ちゃんずるいよ…ぼくは…ぼくは…。」

もうガマンできない。ぜったいに泣かないって思ってたのに、それはムリみたいだった。

「本気でいらない子だと思ってたんだからあぁぁぁ!!」

次から次へとなみだがおちてく。くやしいのと安心したのとうれしいのとで、もうわけがわからなくなっちゃった。車の中でぼくのなみだはおわっちゃったと思ってたけど、なみだって、いがいとたくさんあるもんなんだね。

「お、おいおい!!そんなに泣くなよぉ〜。」

「こりゃ100%ルパンが悪いな。子供相手に本気になりすぎた。」

とたんにうろたえだした父ちゃんに向かって、ジェーンが一言冷たく言った。今日のジェーンはぼくの味方。シタが回らなかった赤ちゃんのときのクセでずっと「ジェーン」って呼んでたけど、これからはちゃんと「次元」って呼んであげようかなって思うくらいいい人だ。

「おいおい、お前までそんなに言うこたねぇだろ〜。」

二人にはさまれて、父ちゃんはもうホントにこまってる。ちょっとくらいぼくのためにこまればいいんだ。

「ったく。わかった、悪かったって!!なぁボーズ。どうしたら泣き止んでくれんだよ〜…。」

「…高いおもちゃ買って…。」

どうしたら?そんなの、きまってるじゃん!!ジェーンの手をにぎったまま、ぼくはせいいっぱいのふくれっ面をして、おこってることを父ちゃんにわからせてやる。ぼくは、死ぬかもしれないって思ったんだ!!

「あぁ!?た、高い!?」

聞いた父ちゃんはコシを抜かしちゃったみたいだけど、となりのジェーンは心底たのしそうに笑ってた。

「アッハッハ!!さすがルパンの息子だぜ。ちゃっかりしてやがる!!」

「笑い事じゃねーぞ、オイ!!俺はな、コイツを欲のない慎ましー子に育てようと思ってたんだ!!これは普段一緒に暮らしてるお前の育児放棄と見なすぞ!!ど〜してくれるんだ!!」

「何言ってやがる。お前と不二子からどこをどうやったら『欲のない慎ましい子』が生まれるんだ。生まれたとしたら、そいつは間違いなくお前の子じゃねぇよ。」

「な、ナニ〜!?」

あーあ、とうとう父ちゃんがワルサーを胸元から出した。また始まっちゃった。せっかく生きてかえってこれたのに、これじゃいみがなくなっちゃう。ジェーンがマグナムを取り出すまえにおわらせないと、ぼくのおもちゃが…。

「ねぇ、父ちゃん。それよりおもちゃ…。」

「〜〜っ!!わーった!!わーったよ!!今すぐどこのおもちゃ屋にでも連れてってやらぁ!!さっさと乗れぇ!!」

イッシュンくやしそうにワルサーをふりまわした父ちゃんだったけど、すぐにそれを元のばしょにしまうと、一人でおこって車に行っちゃった。まったく、ホントに子供みたいなんだから。でもぼくは、ジゴクのエンマ大王さまみたいな父ちゃんよりも、まるでぼくの弟みたくわがままな父ちゃんのほうが、ずっとずっと好きなんだ。

「わーい!!父ちゃん大好き!!」

ぼくはやっとジェーンの手をはなすと、歩いてる父ちゃんに向かって走り出した。おいついてその背中にとびつくころには、父ちゃんのキゲンも直ってるかな?

 

 

けっきょく、おもちゃ屋さんはどこも閉まってて、ぼくはその日のうちにおもちゃを買ってもらえなかった。父ちゃんはまだ何けんかさがしたかったみたいだけど、ジェーンもぼくももうヘトヘトだったから、またこんどにしようって言ったんだ。それもやっとのことでなんだけど…。

かえりの車の中も、やっぱりぼくにはとても乗りごこちがよかった。どうしてもがまんできなくて、やっぱり家につく前にねちゃったんだけど、その前に、父ちゃんとジェーンがこっそり話してるのが聞こえたんだ。

それは、きっとぼくにはまだわからない、けれどもそのうちきっとわかるんだろう「オヤゴコロ」ってやつなんだろうな。

「なぁ次元。」

「なんだ。」

「子供ってのは、親の知らぬ間にでっかくなってくもんなんだなぁ…。」

「…なんだ、突然。お前が知らぬ間にでっかくなるのは当然だ。なんせ9ヶ月も会ってなかったんだからな。」

「チャチャ入れるなぃ。正直、まさかあいつが助けに来るとは思わなかったぜ。しかもあんなやり方でよ。」

「あぁ…。確かに、ヤツはお前の嘘にめげずに懐の中のモンまで盗ったからな。しかも見事に。」

「全く、変に庇って車に置き去りにするんじゃなかったぜ。俺は何にも教えてねぇってのによ。…血は争えねぇな。不覚にもちょっと感動しちまった。」

「あぁ。…そう言えば、今日あいつがいつも人の髭剃り見てる理由を言ってたぜ。」

「あ?なんだそれ?…言われてみれば、確かに今日も髭剃り見てたな。」

「俺が聞いたんだ。何で見るんだって。そしたらなんて答えたと思う?」

「なんて?」

「『ぼくも早くヒゲがそれるような大人になりたいからだよ。』だとよ。大昔のお前と同じこと抜かしやがった。」

「…そう言えばそんなこと言ってた時があったなぁ…。」

「全く、血は争えねぇな。」

…血は争えない…。

ぼくもいつか、父ちゃんみたいにつよくてやさしい大ドロボウになれるのかな…?

そんなことを思いながら、ぼくは車の中でゆめを見たんだ。

父ちゃんみたいな大ドロボウになって、ジェーンみたいなアイボウといっしょに、せかい中を回るんだ。とちゅうでフジコみたいな女の子と出会って、センちゃんみたいななかまも見つけて、まいにちをぼうけんしてくらすんだ。

 

…きっと。

 

きっとそんな人生、たのしいんだろうなぁ…。

 

 

 

2005.12.25    MOSCO

作中登場作品

 

「時空戦士スピルバン」

1986/04/07-1987/03/09

テレビ朝日系列にて放映

制作:テレビ朝日・東映・旭通信社

作中登場歌

 

時空戦士スピルバン

歌:水木一郎

作詞:八手三郎

作・編曲:渡辺宙明

※作中登場作品及び作中登場歌におきましては、時代背景にリアリティーを出すために作者がネットで調べたものです。万が一使用内容に間違い等の不備がございましたら、お知らせ頂ければ幸いです。