HOLIDAY!!
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ぼくの父ちゃんは、「ルパン三世」とかって呼ばれてる。
ルパン…。
いつ聞いてもへんな名前。
テレビでやってる「スピルバン」の「ジョウヨウスケ」のほうがいちおくせんまんばいカッコいいと思うのに、それを言ったって父ちゃんはいつになっても「ルパン」のまんま。だからぼくはぜったいに「ルパン」なんて呼んでやらないんだ。
父ちゃんはいつもシゴトがいそがしくて、なかなかぼくが住んでる日本には帰ってこれないんだと、いつだかフジコが言ってた。そのフジコだって、ぼくに会いに来るのは一週間にイッペンあるかないかなんだけど。フジコにはきっと、ぼくのハハオヤだというジカクがないんだ。
「とっうちゃ〜ん!!あっさだよ〜!!」
「と」と「う」のあいだでカーテンをあけて、「あ」と「さ」のあいだで父ちゃんのおなかに思いっきりのっかった。父ちゃんはいっしゅん「うっ」って言ったけど、まだおきてはくれないみたいだ。またすぐにイビキをかき始めちゃった。
大人ってなんでこんなにいっぱいねるんだろう。今いっしょに住んでるジェーンも、気がつくとソファの上でねてるんだもん。大人って、ナマケモノだなぁ。
「とうちゃ〜ん。おきてよ〜。もうあさデスよ〜!!」
父ちゃんのウチに泊まったのは久しぶり。さいごに会ったときから、9回はカレンダーをやぶった。ジェーンは、ぼくが父ちゃんのことおぼえてるかどうかシンパイだったみたいだけど、このぼくが自分の父ちゃんをわすれるわけないじゃん!!
って言ったら、なぜだか大声で笑われた。
「蛙の子は蛙だな。」
だって。
だから「ぼくはカエルじゃない!!」っておこったんだ。そしたらこんどはもっと大きな声で笑いだした。いっつも思うんだけど、ジェーンってわけわかんない。さっこちゃんちのお母さんがいつもさっこちゃんといっしょにいるみたく、ジェーンもいつもぼくといっしょにいるけど、ジェーンはおしごとしてないのかな?それとも、フジコにほっとかれるぼくをフビンに思ったのかな?
おきてくるかと思ってしばらくだまってたけど、父ちゃんはまだおきない。
「しょうがない!!ヒッサツワザだ!!」
ぼくはとなりのへやからこないだジェーンにかってもらったスピルバンのツインブレード(そんごくうのニョイボウに似てるかも)を持ってきて、思いっきり父ちゃんにアタックした。
「アークインパルス!!」
スピルバンのひっさつわざ。これをくらって生きてるものはいないのだ!!ぼくは力いっぱいツインブレードでたたかった。おかげでこんどこそ父ちゃんはすぐに目をさましたみたいだ。
「イテ、イテテ!!こら!!ちょっと!!やめなさい!!やめなさいってば!!なにを!!やってんの!!」
てい!てい!どうだ!まいったか!!このツインブレードの前では父ちゃんもにげ回るしかないみたいだ。さすがスピルバンのブキ!!それにしてもまったく、セワノヤケル父ちゃんだ。きっとパンドラのブカにちがいない!!
と、思ったら。
「フフフフフ……。これくらいで私がやられると思ったら大間違いだよ、ボウヤ。」
おきあがった父ちゃんは、女王パンドラそっくりな声でおそいかかってきた!!父ちゃんはパンドラのブカじゃなくて、パンドラのヘンシンしたスガタだったんだ!!父ちゃんの上にのっかってたぼくは上と下がまっさかさまになってふりおとされた!!
「くっそー!!パンドラめ!!オレのイカリはバクハツスンゼン!!」
ツインブレードをかまえなおして、そのまま父ちゃんにとびかかった。こんなナマケモノに負けるかー!!
4回目の「アークインパルス」で、父ちゃんはとうとうたおれた!!
「ス、スピルバンボウヤ…お…覚えてなさい…!!」
そういってパンドラの声をしたとうちゃんはカエラヌヒトトナッタノデアッタ…。
「なにやってんだ…お前ら…。」
スピルバンごっこのおわりは、そんなジェーンのつめたい声でマクをトジた。父ちゃんもぼくもすごくへんなかっこうをしてたから、いきなり来たジェーンはきっとぼくたちをへんな人に思ったんだ。けれど父ちゃんはまるで気にしないでジェーンをさそう。
「お〜、ジェーン!!来るのが遅いんだよ!!もうすこ〜し早く来てくれれば、俺とお前の最強タッグでスピルバンに勝てたってのによ〜。」
「ルパン!!てめぇがその名前で呼ぶなと何度言ったらわかるんだ。ったく誰がお前に味方するってんだ。俺は真っ平ごめんだぜ。こっちがいくら味方してやったって、いつだって仇で返してくれるだろうがよ。それより飯だ飯。おりゃあ腹減ったんだ。」
今日もジェーンは父ちゃんにつめたい。二人は、なんだか仲がわるいみたいなのに、なんでいつもいっしょにいるんだろう?へんなの。
大人のセカイはぼくにはわからないことがいっぱいだ。
父ちゃんがかおを洗ってヒゲをそってるあいだ、ジェーンは台所でベーコン豆を作ってた。はっきり言って、ジェーンのベーコン豆は好きじゃない。苦いし、カリカリでハグキにささるし、何よりぼくはあの豆がたべられないんだ。なんか、おいしくないんだもん。それをしってるジェーンは、豆ができるといつもぼくのためにケチャップタマゴも作ってくれる。タマゴとケチャップをフライパンの上でごちゃまぜにするだけなんだけど、これがホントにおいしいんだ。これさえあれば、ぼくはおかしを食べれなくたっていいと思うよ(たまにはチェルシーのヨーグルト味が食べたくなるかもしれないけど…)。
いつもジェーンのそばでしてるように、ぼくは父ちゃんがひげを全部そるのを見とどけてから、タマゴをわり始めたジェーンのおてつだいをした。かた手でタマゴをまぜながら、背のとどかないぼくにお皿をとってくれる。
「…はいよ。」
「ありがとっ!!」
もらった三まいのお皿をリビングにあるテーブルにもっていって並べていたら、ジェーンが「そういや」って話しかけてきた。
「お前、人がヒゲ剃ってるの見るの好きだよな。ありゃなんでだ?」
目せんはあいかわらずフライパンの上だけど、これはジェーンのクセなんだ。ジェーンはだいじなコトを聞くときは必ず目をそらす。父ちゃんには、「何かを聞くときはあいての目を見ろ」ってよく言われるんだけど、これも二人でちがう所。
やっぱり二人は仲がわるい。
でも、ぼくがみんなのひげをそる所を見てるりゆうを聞いてどうするんだろ?これがジェーンにとって大切なシツモンだとはあんまり思えないんだけど…(ぼくにとってはイチダイジだけどね!!)。
「なんでって…ぼくも早くヒゲがそれるような大人になりたいからだよ。」
そんなの決まってるじゃんか。ぼくは早くヒゲがそれるような大人になって、父ちゃんとかジェーンとか、ワケわかんないニンゲンの本性をあばくんだ。
ぼくの答えにジェーンの手が止まった。びっくりしたような目をしてこっちを見てる。こういうのを「ハトがマメデッポウ食らったようなかお」っていうのかな(こないだ見たドラマで言ってた)?こんなジェーンのかおはあんまり見れない。
「…どうしたの?」
あんまりにもびっくりしてるもんだから、とうとうシンパイになってぼくはジェーンに聞き返した。
「あ、いや…。」
こんなことを言うジェーンからはまず答えはもらえない。それはぼくの人生の中でおぼえた一つのことだった。ジェーンのくれる答えはいつもはっきりしたもので、それ以上もそれ以下も全くないんだ。はっきり言ってくれない時は言いたくない時だから、あとは何が何でもおしえてくれない。
「…そう?」
ぼくはあきらめて、ならべるためのフォークを取りにジェーンの所へもどった。
おしえてくれないのは何かかくしてるってことなんだよ。こっちだってなかなかしぶといんだ。いつかリユウを聞いてやる。
そんなことをしているうちに、着がえもおわった父ちゃんがもどってきて、ぼくたちはごはんを食べながら今日のお休みのすごし方をみんなで話しあった。
「しっかし休みだってのにムサい男三人きりたぁ、ちょっと寂しいんでないのぉ?」
いただきますって言ったとたん、父ちゃんがほっぺをふくらませながらベーコン豆ののっかったお皿をトントンたたきはじめる。こんなときの父ちゃんは、たぶんあたまの中がぼくと同い年くらいになっちゃうんだ。
「てめぇが不二子を捕まえ損ねるのが悪いんじゃねえか。つーかフォークで皿を突っつくな、教育に悪い。」
ジェーンはまだレイセイみたいだ。でもぼくにはこのあとおこることが予想できちゃう。今のうちにタイサクを考えないと、ぼくがひどい目にあうんだ。
「なんでぇなんでぇ。こんな時ばっか親面しやがって!そいつは俺の子だっつーのっ。」
「…おい坊主。こんな大人にだけはなるなよ…。」
「うるせー!!ジェーンの癖に!!」
「てめぇ喧嘩売ってんのかっ!!」
ほらきた。
とうとう二人はお互いのむなぐらをつかみ出した。ジェーンなんてもう右手がこしのあたりにいってる。今にもマグナムをとり出しそう。このままじゃ、ぼくのイノチノキキだ。
「…ぼく、ゆうえんちに行きたいなぁ…。」
ジェーンのマグナムが父ちゃんのあたまにぴったりとくっついた時、ひきがねを引くギリギリでぼくはせいいっぱいかわいい子供のふりをしてそう言ったんだ。
「……。」
「……。」
二人のうごきと口がピタリと止まった。ぼくは知ってる。二人ともかわいい子供にはアマいんだ。ホントはゆうえんちなんてどうでもよかったんだけど、この家があなぼこだらけにならないうちに何かをテイアンしなきゃ、またとおくに引っこさなくちゃいけなくなっちゃう。せっかく友だちになったとなりんちのブンちゃんとまたお別れするのはイヤだ。
父ちゃんたちはいつもにげまわってる。ぼくのツゴウなんておかまいなしだ。何でかわからないけど、ピストルをもっているとおまわりさんにつかまっちゃうんだって。だったらピストルなんて持たなきゃいいのに。へんなの。
「…行くか?遊園地。」
しばらくたったあと、父ちゃんが聞いた。
「…行くか。遊園地。」
とジェーンがうなづく。
となりにいた父ちゃんが、そんなジェーンを見てポンポンとぼくのあたまをたたいた。
まったく、大人ってホントわけわかんない。
ごはんを食べたあと、ぼくたちはあそびに行くじゅんびをしてすぐに、かくしてあったフィアット500に乗った。
父ちゃんのうんてんする車は、いつも乗りごこちがとてもいい。別にジェーンのうんてんがわるいわけじゃないんだけど、ぼくは父ちゃんのうんてんが大好きだ。
フィアット500は、あっというまにゆうえんちのある東ヘ東ヘと突きすすむ。
さいしょはたのしくてたのしくてしょうがなかったんだけど、ぼくはフカクにも、乗りごこちよすぎて途中でねちゃったんだ。
とおくで父ちゃんとジェーンが、仲よさそうに笑いあっているのが聞こえたような気がする。
なんだ…二人はじつは仲いいんじゃないか…。