Day After Day

3.Good Eveninng

食べるものを食べてしまうと、寝ていないはずなのに五ェ門は急に元気になった。

「次元。礼に酒を奢ろう」

そう言って自分の部屋に戻り、それからふらりと出て行くと、ありとあらゆる種類の酒を大量に買い込んで帰ってきた。どうやら五ェ門は金がないわけではなく、金を忘れて修行に出かけて行ったらしい。生活の根本的な何かが欠如している癖に修行も何もあったもんではないと次元は思うのだが、何しろ酒を奢ってもらうので小言を言うのはやめることにした。洋酒は流石に次元の方が詳しいが、五ェ門がどこからか持って来る絶品の日本酒は、到底次元には探し出せないのだ。

「そういや、なんで俺達がここにいるとわかった?」

買って来た酒を二人でテーブルの上に並べながら次元は聞いた。次元とルパンがここのアジトにやってきたのは、修行に行くと言った五ェ門とは別れた後だった。カジノのルーレットでルパンが決めたのだ。8番に入ったら東、4番に入ったら北、という感じで気まぐれのような決め方をした。

だからこの場所に、腹空かしの五ェ門が辿り着けたのは全くの奇跡のように思えたのだ。

「ルパンが連絡を寄越したのだ」

手に取った大吟醸のラベルを眺めながら、五ェ門はひとつ満足そうに頷いた。心にはもう酒しかないらしい。

「連絡って…お前に連絡手段はないだろうに」

「うむ。伝書鳩がやってきた。」

「伝書鳩だと?」

次元は思わずしかめっ面を返してしまった。今時、伝書鳩なんていうアナクロな伝達手段が手段として成り立つのか。

「この手紙が昨日、世話になっていた寺へ遊びに来た鳩の足に括り付けてあったのだ」

五ェ門が懐から出てきた手紙は間違いなくルパンの字で書かれていた。小さく畳んで、おみくじのように鳩の足に結ばれていたのだろう。しわくちゃの折り目が目立った。「仕事アリ。至急帰宅セヨ。」というメッセージと、ここの住所が書いてある。伝書鳩か人に頼むか、ルパンが現地に行かない限りは、山奥にいた五ェ門へなど届くはずのない手紙だ。そしてルパンは、仕事を思いついた一昨日から部屋を一歩も出ていない。人にも会っていない。ということは、部屋の窓からやってくる鳩に手紙を任せたということになるのだろうか?

「拙者もまさかとは思ったのだが、まぁ、まさかと思う事をやらかすのがルパンという人間だからな」

五ェ門もルパンのこういう行動に関してだけは修行が行き届いているらしい。彼自身が次元よりも些か現実性に欠ける為、受け入れやすいのだろう。たまにそれを逆手に取られて騙されたりするのだが…。

気づくと酒は並べ終わっていた。数えるとボトルだけで26本ある。ただ飲むだけじゃつまらないので、軽いつまみを作りながら二人して飲んでいると、やっと起き出したらしいルパンがそわそわと出かける準備をしだした。

「何やってんだ、ルパン?」

歯を磨きながら髪型を整え、足だけで靴下を履きながら目は新聞の文字を追うという離れ業をやってのけているルパンに向かって、次元はテーブル越しに半ばわかりきっている質問を一応ぶつけてみた。

「あいって。きあってるでひょーが。デートだよ、デート!!」

聞くと今日の相手はこの町屈指の踊り子らしい。一週間前に散々甘い文句を振りかけて落としたのだが向こうも忙しく、今日やっとデートができることになったという。しかし歯磨き粉の泡を撒き散らしながら嬉しそうに今日の計画を喚いている相棒に、どう考えても明るい未来はなさそうだった。

プレゼントする宝石を三十分近くかけて選び出し、ルパンは夕暮れの町へと繰り出して行った。

「奴は人を呼びつけておいて自分はデートに行くのか」

呟いた五ェ門が羨ましがっているのか呆れているのか、その真意は次元には測りかねた。


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