正義の人
7 「大岡」
息を切らして店内に駆け込んできた幸代を、見つけたのは大岡だった。
「幸代さん」
「あ、お待たせしてしまってすみません」
入口近くの二人席に座っていた大岡を幸代もすぐに見つけ出し、向かいの席に腰掛ける。寄ってきた店員にホットコーヒーを一つ注文した。
「社内での打ち合わせが長引いてしまって。ずいぶん待ちました?」
巻いていたマフラーとコートを脱いで水を一口飲むと、幸代はやっと一息ついたようだった。よっぽど急いでやって来たのか、正面の前髪が少し跳ねている。違和感に気付いてサッと髪型を整えた幸代に、大岡はやはりドキリとしてしまう。女が髪型を気にする仕草はいい。それが、気になっている人ならなおのこと。ほんのりと上気した頬も、より一層幸代を魅力的に見せている気がした。
「大岡さん?」
どうかなさいました、と不意に幸代が大きな瞳をこちらに向けた。
「あ、いいえ。僕も今さっき来たばかりですよ」
しばらく見惚れていたことを取り繕うように、大岡は早口でそう言った。
二人は、代官山にあるカフェで話をするべく落ち合っていた。呼び出したのは大岡。店を選んだのは幸代。女性受けのするレトロイタリアン風な外観とテラス席が有名な店舗だったが、冬のこの時期はさすがに外に客の姿はない。忙しいランチの時間が過ぎて、近隣のOLや主婦たちもようやくいなくなった店内は、夕方の繁忙時間に向けて、つかの間息をついたようでもあった。これでもかと南側に窓を大きく取っているので、今日のように晴れた日は暖かな日差しが届いている。響く音といえば、品よく小さめに流れるジャズ、カウンターの内側でスタッフが洗い物をしている音と、どこかの席で誰かがノートパソコンのキーボードを叩いている音だけだった。
「さっそくですが。私を呼び出していただいたということは、ルパン四世の予告が出たんですね?」
待ちきれない、とでもいうように幸代が話を切り出した。テーブルのふちに両手を組んで身を乗り出すその目は、これ以上ないほど輝きに満ちている。
これがデートで、輝きの元が自分自身だったらどんなに幸せだったことだろう、と大岡は思った。きっと天にも昇れるだろう。それなのに、なんとこの空間に相応しくない会話を展開しようとしているのか。そう心の中で一人盛大に嘆いて、実際ひっそりと溜息をつき、幸代に質問の答えを提示すべく口を開いた。
「…それについてなんですが。幸代さんにとってよいお話と悪いお話が一つずつ、あるんです」
目の前の輝きが、一瞬にして消え去ってしまうことを大岡は確信していた。奪ってしまうのがほかならぬ自分自身だということも。なんだか幸代も自分も裏切っているようでいたたまれない気分になり、思いっきり目の前のコーヒーを飲みほした。
「いい話と悪い話…ですか?」
案の定、幸代が不安そうに聞いてくる。
「えぇ」
カップを置いた大岡は、意を決して話し始める。始めたら、一気にまくし立てるように全てを言い切ると決めていた。途中で言い淀んだら最後、幸代にとっての事実を伝えられなくなるかもしれないからだ。
「いい話というのは、昨日、本庁と所轄にEメールが届いたことです。仰る通り、四世からの予告です。相変わらず、なんとも人を食ったような苛立たしい内容のものでした。それから悪い話というのが…上層部との審議の結果、やはり一般人である幸代さんを、捜査に加えることは不可能である…ということでして…」
そこで、話を途切らすかのようにウェイターがコーヒーを運んできた。バツの悪い空気の中でソーサーとカップを置いて行ってしまうと、沈黙だけがその場に残った。
本当は、「いい話」だなんてとんでもない。警視庁にとって内容以前の問題として屈辱以外の何物でもなかった。Eメールは、警視庁のホームページや公的なツールを使ってではなく、内部の職員同士で使用している独自サーバーにハッキングして送りつけられたものだった。しかもご丁寧なことに、上層部幹部から新人の巡査まで、あてがわれていた個々のアドレス全てに一斉送信されていた。発信元は今もって不明。窃盗の前に完全なるネット犯罪の完成である。近年は特別対策室まで設置してこういったケースに対応しようとしてきた警視庁の努力が、全て水の泡と消え去った瞬間であった。
逆に、「悪い話」は大岡にとっては胸を撫で下ろす結果となった。上司に話を通さず勝手に自分の判断で幸代の申し出を断るほど鬼ではないが、いかに銭形警部の孫で大岡の思い人であろうとも、こんなサイバーテロまがいの行為を平気でやってのける相手の前に彼女を立たせるわけには死んでもいかない。幸代はあくまで一般人なのだ。「銭形」の名前の前に課長の目がくらまなくて本当によかったと思っているほどである。
「…わかりました」
大岡の願いが通じたのか、幸代は諦めたように肩を落とすと一言言った。意外にすんなりと納得されたことにいささか驚いたが、いざこざは少ない方がいい。特に、これから仲良くなりたい人を相手にするならば。幸代とは正反対の意味で、大岡は肩を下ろした。
幸代は運ばれてきたばかりのコーヒーにミルクだけを入れてかき混ぜる。それから中身を飲もうとして何かを思い立ったのか、持ち手に手をかけたままの状態で大岡を見た。
「一つだけ、お尋ねしてもいいですか?」
「…はい。なんでしょう?」
心なしか、幸代の目の色が変わった気がする。太陽が曇ったか。それとも怒っているのか。いや、そうではないだろう。店内も、外の天気も幸代の顔も何も変わっていない。目の色だけがすっと濃くなる。この目を、大岡はどこかで見たことがある。どこでだっただろう。
「大岡さんの正義は、一体どこにありますか?」
「え?」
ルパン捜査に関する質問をされるものだとばかり思っていた大岡は、面食らって聞き返してしまった。眺めていた眼と見つめられた眼の焦点が合い、まともに幸代と視線がぶつかってしまった。それでも顔色一つ変えず自分を見返してくる相手に、さすがの大岡も気恥ずかしさを覚えて目を逸らした。
「と、突然何をおっしゃるんですか…」
取り繕うようにウェイターを呼び、コーヒーのおかわりを頼んだ大岡だったが、幸代の目の色は一向に戻る気配を見せない。これは本気だと、気づくのに時間はかからなかった。
「正義、と仰いますと…正義ですか…?」
「そうです。『正義』です」
今この瞬間に人が傍を通り抜けたら、一体何の話をしているのかと思うだろう。正義正義と連呼するのは、いくら警察官である大岡にとってだって日常的ではない。そんなものは、朝のちびっこヒーローショーの中かアメリカ大統領の演説の中にしか存在しないとまで思っていたのだ。突然、それを真面目に問いかけてくるとは、やはり幸代はよっぽど捜査に参加できないのが悔しかったのだろうか。
「僕にとっての正義とは…そうですね…」
それでも逡巡した大岡は、仕方なく一つの「答え」を導き出す。
「個人の生命、身体及び財産の保護に任じ、犯罪の予防、鎮圧及び捜査、被疑者の逮捕、交通の取締その他公共の安全と秩序の維持に……」
「警察法ではなく!」
ガシャン、と勢いよくテーブルの上のコーヒーセットが音を立てた。
「わ!よく御存じで」
気休めが瞬殺でばれたことと、思わぬ大きな音に、大岡が驚いて思わず椅子を引くと、幸代ははっとして叩きつけた両手を引っ込めた。いつも大岡の前では可憐で清楚な表情しか見せないが、もしかしたら彼女は、内に秘めた情熱を隠し持ってしているのかもしれない。
「…すみません。突然こんなことを言われても答えられないですよね…。あの…興奮しすぎました…」
真っ赤になって弁明する幸代だったが、それでも顔を上げると意志の固い目を向けた。どこで見たのか、その時になって大岡は初めて思い出したのだ。
これは、銭形が事件の前で見せる目だ。
「一つだけ、昔話をしてもいいですか?」
仕切り直すかのように、今度こそコーヒーを口に運んだ幸代は大岡に聞いた。言うまでもなく、幸代のことなら何でも知りたい大岡に断る余地はない。
「えぇ、もちろん」
「……ありがとうございます」
それでも一瞬だけ言い淀んだように見えたのは、大岡の見間違いだったのだろうか?目の前の彼女の姿が、先ほどまでの自分とオーバーラップして見えた。
そこへ大岡の頼んだコーヒーが運ばれてくる。店員がコーヒーを置いている間に、幸代は意を決したようだった。
「実は昔、私も警察官になりたくて採用試験を受けようと思ったことがあったんです」
「え?」
躊躇の割に話し始めた内容がなんとなく意外で、大岡は思わず聞き返してしまった。あまりに驚いたように見えたのか、幸代はおかしそうにくすりと笑った。
「意外ですか? これでも私は小さい頃から祖父の働く姿を…主にテレビの中で、ですけど見て知っていたので…。あの姿にあこがれを感じていたんですよ。」
「そ、そうなんですか」
相槌は打ったものの、正直にわかには信じられなかった。当時の銭形のことは大岡もテレビのワイドショーなどでよく見かけていたが、とてもじゃないが「憧れ」を抱く対象になるような取り上げ方はされていなかったように思う。毎回ルパンに逃げられるドジな警察として、半ば蔑まれ笑いものにされていた。実際の銭形と仕事をするようになったからこそこうして尊敬に近い念を抱くようになったが、テレビと私生活だけではただの間抜けおやじではないか。
しかし、ここで幸代の話の腰を折れるほど、大岡も子供ではない。動揺は胸の中に隠し、彼女の語る「昔話」に再び耳を傾けた。
「それで大学四年生の時、両親と祖父にそのことを相談しに行ったんです。当時は大学の寮に住んでいましたので、片道二時間かけて横浜から春日部まで。きっと祖父は喜んでくれるだろうな、なんて思いながら」
「そりゃあ、孫娘が自分の意志を継いでくれれば嬉しいでしょう」
「大岡さんもそう思うでしょう? でも実際は私、開口一番に怒鳴りつけられてしまったんですよ」
「なぜです? あ、可愛い孫娘が危険な目に合うのが許せなかったから?」
「いいえ。それくらいは私も想像してなかったことではないですし、反論はそれこそ寝ずに考えていたんですけれどね」
当時の自分を懐かしむように微笑んだ幸代は、一瞬の間の後、視線と声のトーンを落として静かに言った。
「『愛する者の死に目にも会えないこんな商売はクソだ』…って…」
「……え?」
「『どうしても警察になるというなら今後一切お前との縁を切る。銭形の名を名乗るな』とも…はっきり言われたんです」
驚いて声が出ないということが、この世に存在する現象だと、大岡はこの時生まれて初めて知った。聞いた瞬間に息を呑む。呑んだはいいが、その先の言葉が見つからない。まさかの一言に、脳みその処理が完全に追いついていなかった。それくらい、セリフが銭形の口から発せられたことが信じられなかったのである。
反応のない大岡に幸代の顔が上がり、表情を見てまたくすりと笑った。自分は今、とてつもなく変な顔をしているに違いない。が、それをフォローする余裕も今は持ち合わせていなかった。
一体どういうことだろう?
「私もその瞬間、目が点になってしまって。でも祖父は顔を真っ赤にして本気で怒っているし、それ以上何も言う気はないようでずっと黙り込んでいるしで、本当に途方に暮れてしまいました。両親もびっくりしたのか祖父に対して宥めたりすかしたりいろいろしてくれたんですけれど全くだめで。結局、すごすごとまた二時間かけて家に帰ったんですよね」
動揺される気持ちわかりますよ、と小さく頷いた幸代は、冷静にコーヒーを啜っている。だが、大岡はまだ理性が追い付かない。
「…信じられない。あの銭形さんが自分の商売を「クソ」だと?警察になるなら縁を切ると?」
「えぇ。私も、祖父の仕事に対する熱意と誇りは知っていましたから、何が起きたのかわからなくて。そうすると今度はどうしても理由が知りたくなってしまい、考えてみたんです。祖父の言う「愛する人の死に目」を。そしたら、一つだけ思い当たることがありました」
「なんです?」
「祖母が亡くなった時です」
淡々と、幸代は言葉を紡いでいた。だから大岡がしまったと思った時にはもう遅い。昔の話ですから、と逆に気を遣わせてしまった。普段の仕事中なら、大岡だってそこそこ気の利いた受け答えや会話の進ませ方をすることができる。それなのになぜ、ここぞという場面でこうなってしまうのか。
小さな声ですみませんと謝ると、幸代はもう一度、いいんです、と微笑んだ。
「末期ガンの祖母が息を引き取った時、祖父はちょうどルパンの情報を掴んでペルーのマチュピチュに飛んで行ったところでした。当時は連絡手段も今のように発達していませんでしたから、何も知らずに捜査日程の全てを消化してきたそうです。後で聞けば結果は空振りだったようで。その上、帰ってきたころには告別式も終わっていて、祖父は一人で真新しい墓地に花を手向けに行くことになってしまいました。でも、祖父はそれでも涙の一つも見せなかった。母が祖父のことを散々詰って喚いても、何も言わずにただ聞いていた。それどころか相変わらず、ルパンの目撃情報があればすぐに世界中どこへでも飛んで行ってしまう。それで母もさらに怒ってしまって……。当時の我が家は、子供の私から見てもそれはもう荒んで大変でしたよ」
想像に難くない。大岡の知る銭形とはそういう男だった。家庭を顧みず、会社(といっても銭形の所属するのは警察だったが)の利益を真っ先に考える。たまに家に帰っても寝てばかりいるから子供には好かれない。そんな、昭和の仕事人間の代表例である。
「…それがなんで、その、幸代さんを怒鳴りつけることに?」
と口をついて出たのは至極自然なことだった。
「私、実は見てしまったんです。ある日の夜中に、ステテコ姿のまま出て行く祖父を。不審に思って後をつけてみたら……何処に行ったと思います?」
そう問いかける幸代に、大岡も真剣に銭形の取りそうな行動を予測してみる。しかし、大体が行動パターンの決まっている銭形であるから、予測も大したバリエーションは得られない。
「…さぁ? 普段の銭形さんなら、自動販売機にカップ酒でも買いに行くところでしょうが…」
「ふふ。大岡さん、祖父をよくご存じなんですね。そう、普段ならそんなところでしょうけれど、その時は、自販機を素通りして近所の公園に向かったんです」
「公園?そんなところでなにを?」
夜中の公園と銭形といえば、現場帰りの説教か、飲み過ぎてフラフラになったのを介抱した覚えしか残っていない。仕事帰りのOLに痴漢と間違われて通報されたこともあるという「伝説」も警視庁に残っているほどだ。それくらい銭形と公園の相性はよろしくない。しかし。
「祖父は、泣いていたんです」
「まさか!」
本日二度目の驚愕。思わず大きな声で否定することしかできなかった。その反応も幸代は見越していたようで、大岡の声には少し間を置いただけで話を続けた。
「私もそう思いました。まさか祖父が、しかもあんなに子供のように泣きじゃくることがあるものかと、自分の目を疑ってしまったんですよ。でも、あれは夢ではなかった。祖父が定年退職の日に、ルパン一味が上海で大騒ぎした事件があったのを覚えていらっしゃいませんか?あれ以来、祖父は一度もこの国を離れたことはありません。ただの一度も、です。それが証拠なんだと思います」
「あ……」
言われてみれば、大岡にも心当たりが多すぎる。新人の頃、隠居生活を始めたばかりの銭形と出会ってから、今の今まで彼が海外にいるのを一度も見たり聞いたりしたことがなかった。いつだって彼はあの家にいたし、048から始まる自宅の番号をかければ濁声がいつも受話器越しに響いて来ていた。お伺いを立てればどんなに急な現場でも付き合っていたし、それに対して嫌な顔をしたこともない。警視庁からの要請が、国内の事件に限られているからだったのだ。銭形は海外どころか、恐らく関東近郊から一度も離れていないだろう。
グラグラと、足元が揺らいでゆく。
大岡だってルパン三世に関する資料を読むだけでひしひしと感じていた。銭形のルパンに対する思いは生半可なものではない。「ルパン三世最後の事件」と俗称されている上海の時だって、資料の総数はおびただしいし、作戦は実に複雑かつ難解。あれを破ったルパン三世はさぞかし胸のすく思いをしただろうし、考えた銭形は想像を絶するほど悔しい思いをしただろう。本来の銭形ならば、定年だろうが何だろうが必ずリベンジを誓っているはずだ。それだけ熱心に、執念とも怨念とも取れるストーカーのような執着心で、ICPOにまで出向して世界中ルパン三世を追いかけていた。そんな男が、定年以来一度も国外へ出ていないのだ。よっぽどのことがない限り、退職したからと言ってこれだけ180度生活を変えられるわけがないのに。
なんということだろう。
絶対不変の大地が大きく揺れている気分だった。銭形だけは、「ルパン」を追い続けて死んでゆくものだと思い込んでいた。そして、自分こそがその後を継いでゆくのだと。何をしていても、例え法を犯したとしても、帰るべき軸はその一点だった。信じて疑わずに銭形の背中を見ていた。
「数年前に私の父が事務員としてICPOの本部に出向することになったんですが、その時も一緒に来たらという両親の誘いを頑として断り続けました。仮にも祖父にとっては古巣ですから、いろいろと懐かしい思いもあっただろうに…。結局、母だけがついて行って私と祖父、二人で残っているのが現状です」
話し続ける幸代の声が、遠くに聞こえる。あの家に幸代と銭形が二人きりで住んでいる理由が判明した、大岡にとってはある意味喜ぶべき情報だったが、本当にそれどころではなかった。
なぜ。なぜ。よりにもよってあなたが。
「大岡さん」
改めたように、幸代に呼ばれてはっとした。完全に我を忘れていたところに、かろうじで返事をしなければならないこと思い出した。
「はい」
「『正義』って、なんなんでしょうね?」
「……」
「正義を信じて行動してきた祖父がこんなにも過去に縛られなくてはいけない。しかも、ルパンではなく祖母という過去に、長年の信念がねじ曲がってしまうほど縛られている。私はそれが何なのか知りたくて、過去の事件から何から全て独自のルートで洗い直してみたりもしたんです。お恥ずかしい話ですが、立場を利用してずいぶん体を張ったりもしてきました。……でも、わからない。何もわからないんです。大岡さん、これが正義というものですか?」
大岡には答えられなかった。答えられるはずもなかった。それどころか、頭を抱えてしまいたい気分だ。いつの間にか、自分も幸代とまったく同じ疑問とスパイラルに嵌ってしまっている。
答があるなら、こっちが知りたい。
「幸代さん……」
「はい」
顔を上げると、ちょうど返事をした幸代と目があった。愚直なまでに、曇りのない瞳。この瞳でもって、彼ら一族は正義を追い続けているのか。そんな彼らと向き合い続けることが、果たして自分にできるのだろうか。
「ひとつだけ今回の件に参加できる方法があります」
ポロリと、口から出たセリフは自然だった。それまで考えなかったわけではない。できるだけ、幸代を危険から遠ざけたかっただけなのだ。しかしそれがいかに無意味なことか、大岡は知ってしまった。
当然、言わずにはいられなかったのだ。
「捜査に入り込めないのなら、現場に居合わせてしまえばいいのです」
同志として。
To be continued...