Day After Day

1.Good Morning

気がつくと、太陽はカーテンの隙間から己を主張していた。何時間も放っとらかしにされて拗ねたわがままなそのオンナは、ソファで寝ていた次元に手痛いキスをお見舞いしてくる。キツく閉じた瞼越しに最初はかなりの抵抗を試みたものの、すぐに大自然相手では無駄だと悟った。仕方なく寝直すことをあきらめて、散乱した酒瓶やら空き缶やらを手探りでかき分ける。テーブル上6本の空き缶と3本の空ボトルをひっくり返し、危うく中身のだいぶ残ったブランデーを倒しそうになったのをすんでの所で受け止めると、その傍にリモコンの感触を見つけた。電源を押してもなかなか付いてくれないので、ソファに乗っけた重い頭を少しだけ持ち上げると、やっとのことで照準が定まった。

明るいブラウン管の向こうでは、無茶苦茶ばかりやっているタレントが下手な歌と下手なダンスで世の昼休みを告げていた。大して見たくもなかったが、目覚まし代わりにつけっぱなしにして台所へ向かい、水を一杯飲んでから動き始めることにした。

熱めのシャワーを浴びて酔いを醒まし、身支度をしてから遅い朝飯を作っていると、眠そうな目を擦りながら相棒が部屋から出てきた。

「よぉ、ルパン。久しぶりじゃねぇか」

「おぉ〜…」

次元が声をかけると、ルパンは返事とも唸り声ともつかない音を発しながらフラフラと手を挙げた。

ルパンを最後に見たのは三日前。二人で飲んでいる最中に、おもむろに部屋へ戻っていったのだった。あの時は確か、ボギーの出ていた囚人三人組の映画について話していたような気がする。他愛もない会話の最中に突然ルパンが何か思いついて部屋へ篭ることはよくあることだったから次元はさして気にしていなかったが、一緒に飲もうと奴が持ってきたバーボンがまだ封切られていないことだけが気がかりだった。かといって持ってきた本人を余所に一人で飲み始めるわけにも行くまい。ここ三日はお預けを食らった犬の気分だった。

「これ、目ぇ通しといてくれや」

ふいに、A4サイズの書類が無造作にダイニングテーブルの上に置かれた。「カラマーゾフ大作戦 Vol.1」、次の仕事の計画書だ。無機質に並んだゴシック体に、時たま線を引っ張ってルパンの字が踊っている。これが三日徹夜の成果というわけだ。次元は手にとってパラパラとめくってみた。内容は、さほど悪くない。

「不二子は絡んじゃいねぇだろうな」

念のため聞いてみると冷蔵庫を漁っていた血走った目が、思いがけず次元に向かって大きく見開かれた。

「フジコ?ダレソレ?ボクシラナイ」

言うだけ言って中の牛乳を一気飲みすると、ルパンはそそくさと部屋へ戻っていった。

「あの野郎…また俺たちをただ働きさせるつもりだな」

今度こそそんな仕事は降りてやる。当てつけだとばかりに計画書を放り出すと、次元は料理の続きに取りかかった。腹いせにタコのサラダを大量に作ってやったものの、果たしてそれをルパンが目にする時がやってくるのかどうかが謎だった。


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