Blue daisy


人間、長く生きていればある程度の事は悟れるようになるものである。人によってそれなりの個人差はあるものの、知識として得、あるいは経験し、それらを想像によって未来の教訓とすることは、唯一人間が他の動物より何倍か優れている点でもある。

ルパン四世は、その人生の中で父親の武勇伝を何度となく聞かされ、体験していた。父親の天才ぶり、相棒達の凄腕ぶり、息の合ったプロの仕事。そして何よりルパン、次元、五ェ門の仲の良さ。ただ馴れ合うだけの仲良しグループではなく、かと言って仕事の為だけの間柄でもない。上っ面は喧嘩していてもお互いがお互いを信頼し合い、好き勝手に行動しながらふと見せる気遣いが絶妙のタイミングで入ってくる。これらを常に隣で見て育っていた為か、小さい頃は何の不思議もなく、大人になったら皆、あんな仲間ができると思っていたものだ。

だから、七夕の短冊にも、クリスマスのプレゼントにも、初詣のお願い事にも、彼はこのことだけは書いた事がなかった。何よりも願ってはいたのだが、それはいつか自然にやってくるものだと信じて疑わなかったから。

「最高の相棒(ともだち)が欲しい」

たまにしか会わなかった五ェ門はもちろん、次元や不二子、ルパン三世ですら、四世のそんな願望に気づいたことはなかった。小さい頃の彼が、いつもアンテナを張り巡らして周りの人間を観察し続け、不用意に人の心に踏み込んで嫌われる癖があるのは、ただの遺伝だと思っていたのである。

しかし先に述べたとおり、人というのは学習し、応用する動物である。

ルパン四世も、いつしか自分の父親の奇跡を少しずつ認識するようになった。学校の友達も、近所の上級生も、最初は四世の器用さと喋りのうまさに物珍しげに寄ってきたが、皆そのうちいなくなった。四世から去るときもあれば相手から宣告されることもあった。原因は皆同じ。

「お前は無遠慮過ぎるんだ」

四世の真っ直ぐすぎる瞳と聡明すぎる頭、そしてそれらを包み隠さず披露する行動力は、大人のみならず同じ世代であるはずの子供たちですら恐々とさせた。奴は人とは違う。奴といたらいつか自分を見失う。人々にそう思わせるには十分すぎるほどの能力を、「ルパン」という家系に生まれてしまった彼も、父親と同様に持ってしまっていたのである。

だんだんそのことに気づいていった彼は、今度は自分を押し隠して人と付き合うようになった。独りは嫌だ。真の友情を求め続けて独りぼっちになるくらいなら、大勢の人間に囲まれて自分を繕ったほうがいい、と無意識のうちに防護線を張っていた。そこに、真の友情などあるはずもない。適当に暮らし、適当に考え、適当に付き合う。10歳を越える頃には、もうすでに自分が何を欲しがっていたかなど忘れてしまっていた。無理矢理に、闇に葬り去っていた。

だから七見哲也との出会いは余計、四世に相当の衝撃をもたらしたのである。久しぶりに、「こいつの相棒になれたら」と思える相手であった。銃の名手、酸いも甘いも知った男、そして何より「ルパン」と共に行動するだけの「裏」を知った男。

まるで結婚相手をようやく捜し当てた中年男のような、まるで大昔の財宝を突然掘り当てた冒険家のような、そんな心持で出会った相手に、いくら天才と言えど浮かれないわけがない。

しかし七見の方は。七見は一体、どうして過剰な期待を寄せる若者から離れていかなかったのか。

そして。

一体、どうして二人はコンビを組んで仕事ができるようになったのか。

周りの人間は不思議がるかもしれない。

しかしまぁ、人生を彩るきっかけになる物語なんて、人にとっては案外何てことない出来事だったりするものなのだ。


 TOP NEXT→